吸収合併とは
吸収合併とは、ある会社が他の会社を吸収し、一つに統合することです。
具体的には、存続会社(合併後も存続する会社)が消滅会社(合併の結果、解散する会社)の「資産、負債及び契約など一切の権利義務」を引き継いで存続し、消滅会社は法人格が消滅します。
吸収合併の目的として、以下が挙げられます。
■企業の経営統合によるシナジー効果(相乗効果)
■事業規模の拡大
■グループ企業内の組織再編による経営の効率化
吸収合併に伴う一連の法務手続きは、経営者の方にとって非常に煩雑で見慣れない作業が伴います。
本コラムにおいては、吸収合併の法務手続きと実務のポイントについて解説いたします。
吸収合併の法務手続きの流れ
吸収合併の一般的な法務手続きの流れは次のとおりです。
ここでは、主に中小の株式会社間の吸収合併の法務手続きを想定しています。
※消滅会社では、新株予約権を発行しておらず、登録株式質権者も存在しない場合。
※下記、STEP2~STEP6については、ケースによって順番が前後することがあります。
存続会社及び消滅会社の間で合併条件を協議し、社内承認を経て、吸収合併契約を締結します。
社内承認の方法として、取締役会設置会社であれば取締役会の決議、取締役会非設置会社であれば、取締役の過半数をもって決定します。
【吸収合併契約の法定記載事項について】
会社法第749条に列挙されています。
比較的ニーズの多い、完全親子会社間や完全子会社間の吸収合併の場合、「無対価」とする場合が多く(完全親子会社間の場合は強制無対価、会社法第749条1項3号)、吸収合併契約の記載事項として、合併する旨のほかに、以下2点の事項を定めれば、最低限の要件は充足します。
■存続会社及び消滅会社の商号及び住所
■吸収合併がその効力を生ずる日
存続会社及び消滅会社は、吸収合併契約の内容、その他会社法施行規則で定める事項を記載した書面(事前開示書面)を作成し、本店に備え置かなければなりません。
【事前開示書面の作成の趣旨について】
事前開示書面の備え置きの趣旨としては、株主が合併条件の公正等を判断し、また会社債権者が合併に対し異議を述べるべきが否かを判断するための資料を提供することとされています。
【事前開示書面の備え置き期間とその開始日】
備え置きの期間は、次に掲げる日のいずれか早い日から吸収合併の効力発生日後6か月を経過する日までになります。
■吸収合併契約について承認を受ける株主総会の日の2週間前の日
※ただし、株主総会を会社法第319条1項の定める「書面決議」で行う場合は、株主総会提案のあった日。
■反対株主の株式買取請求に係る通知又は公告の日のいずれか早い日
■新株予約権買取請求に係る通知又は公告の日のいずれか早い日(消滅会社のみ)
■債権者異議手続の公告又は催告の日のいずれか早い日
当事会社の債権者は、合併について異議を述べることができます。
債権者異議申述期間としては、「1か月以上」と定められています。債権者異議手続きが終了していない場合には、吸収合併の効力が発生しないため、吸収合併の効力発生日の前日までには終了させておく必要があります。
したがって、存続会社及び消滅会社は、下記に掲げる内容を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別に催告しなければなりません。
【公告又は催告の内容について】
■吸収合併をする旨
■相手方当事者の商号及び住所
■当事会社の計算書類に関する事項として、会社法施行規則で定めるもの
※公告又は催告時点のいずれか早い時点の最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容
※決算公告を行っている会社であれば、その決算公告の掲載場所の開示
■債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
※一定の期間は、1か月を下ることができません。

決算公告をしていない会社は、合併公告の際に貸借対照表の要旨を掲載する必要があります(同時公告)。その場合、官報の「号外」に掲載する必要があり、申込みから掲載まで約2週間の期間が必要となりますので、スケジューリングの際に注意が必要です。(官報の「本紙」での掲載の場合、申込みから掲載まで約1週間。)
吸収合併に反対する株主は、会社に対し、株主総会に先立って吸収合併に反対する旨を通知し、かつ、株主総会において吸収合併に反対したことを要件として、吸収合併の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。
そのため、当事会社は、効力発生日の20日前までに株主に対し通知を行う必要があります。公開会社である場合、または公開会社でないときには株主総会で合併承認決議を行う場合に限り、株主への通知は、「公告」に代替することができます。
【株主への通知等の趣旨について】
吸収合併の差止請求や買取請求の機会を与えるため、本通知又は公告が行われます。
【株主への通知等の内容】
■吸収合併をする旨
■相手会社の商号及び住所
■承継する消滅会社の資産に存続会社の株式が含まれる場合は、その株式に関する事項(存続会社)



株主への通知は、株主総会招集通知書や株主総会提案書(会社法第319条に基づく書面決議)に上記内容を併せて記載することで、対応可能です。
消滅会社が、株券発行会社であって、株券を現に発行している場合は、吸収合併の効力発生日までに株券を提出しなければならない旨を効力発生日の1か月前までに、公告し、かつ、株主に通知しなければなりません。なお、株券は効力発生日に無効となります。
【株券等提出手続の趣旨について】
合併によって消滅会社の株主の地位に重大な影響が生じることから、公告によって株式の名義書換を促し、新たな権利者を可及的に正確に確定するとともに、消滅会社の株券が合併の効力発生日をもって無効となることから、株券をあらかじめ消滅会社に提出させ、効力発生後に無効となった株券が流通することを防ぐことにあるとされています。
【株券を現に発行していない場合】
株券の不所持の申出がなされている等、株券発行会社でありながら、現実に株券を発行していない場合は、株券を発行していないことを証する書面(消滅会社の株主名簿付)を法務局に提出することで、問題なく受理されます。



完全親子会社間や完全子会社間の合併では、株主が1名であるため、「株券不所持」の申出の手続きを行い、会社として株券を発行しない旨を確定させることで、株券に関する一連の手続きを省略することができます。
存続会社及び消滅会社は、吸収合併の効力発生日の前日までに、株主総会の決議(原則として、特別決議)によって、吸収合併契約の承認を受けなければなりません。
【株主総会決議を省略できる場合】
■簡易合併
合併対価の価額が、存続会社の純資産額の額の5分の1以下であれば、株主総会の決議を省略することができます。完全親子会社間や完全子会社間の無対価合併では、十分に要件を満たします。
※ただし、合併差損が発生する場合(債務超過の会社を吸収合併する場合)や存続会社が非公開会社であって、譲渡制限株式を対価として発行・交付する場合は、この手法を利用することができません。
■略式合併
総株主の議決権の90%以上を支配している親会社(特別支配会社)との吸収合併にあたり、支配される子会社側で株主総会の決議を省略できます。完全親子会社間の合併では、十分に要件を満たします。
※ただし、存続会社が特別支配会社の場合、消滅会社が公開会社であって、かつ、合併対価が譲渡制限株式であるときは、この手法を利用することができません。また、消滅会社が特別支配会社の場合、存続会社が非公開会社であって、かつ、合併対価が譲渡制限株式であるときは、この手法を利用することができません。



簡易合併や略式合併の要件を満たす場合でも、株主総会決議を省略する手法を必ず採用しなければならないわけではありません。実務では「省略できる」だけであり、会社の状況や手続きの進めやすさに応じて、通常どおり株主総会決議を行っても問題ありません。
合併契約において、吸収合併の効力が生じる日と定めた日が効力発生日となります。
消滅会社は清算の手続がとられることなく、合併の効力発生と同時に解散・消滅します。また、合併が無対価である場合を除き、消滅会社の株主に対して、存続会社の株式等の合併契約で定めた合併対価が交付され、存続会社は、消滅会社の権利義務を包括承継します。
【合併の効力発生と主務官庁の認可について】
例えば、下記のような業種については、吸収合併の効力発生の要件として、主務官庁の認可を要しますので、事前に主務官庁との調整が必要となることに注意が必要です。
( 例 )
■一般貨物自動車運送事業
■第二種貨物利用運送事業
■港湾運送事業
合併の効力発生から「2週間以内」に、存続会社の本店所在地において、消滅会社の解散の登記及び存続会社についての変更の登記を同時に申請する必要があります。



合併にあわせて、存続会社の役員(取締役・監査役等)を変更したり、事業目的や商号を変更したりする場合には、合併の登記と同時にこれらの変更登記を申請することが可能です。
存続会社は、吸収合併の効力発生後遅滞なく、吸収合併に関する事項として、会社法施行規則で定める事項を記載した書面を作成し、効力発生日から6か月間本店に備え置く必要があります。
【事後開示書面の作成の趣旨について】
事後開示書面の作成の趣旨としては、吸収合併手続の経過につき開示を要求することにより、その適正な履行を間接的に担保するほか、株主または債権者が合併の無効の訴えを提起すべきか否かを判断する資料を提供することとされています。
実務上の留意点
吸収合併の手続きを進める際に、その他実務上注意すべきポイントをまとめます。
十分なスケジュール計画
吸収合併は思い立って、すぐ完了できるものではありません。
法務手続きの観点だけでも、契約締結から効力発生までは最短でも約2ヶ月を要することが一般的です。
株主総会や取締役会等の各会議体の招集、株主への通知、債権者公告の期間等の各手続きにおいて、法定の期間があるため、余裕をもってスケジュールを組み、各手続きに漏れがないよう計画しましょう。
手続きに瑕疵があると合併が無効原因となる可能性もありますので、焦らず慎重に進めることが重要です。
登記申請の期限厳守
吸収合併の効力発生日から2週間以内に登記申請を行うことは法律上の義務です(会社法第921条)。
この期限を過ぎてしまうと、100万円以下の過料に処される可能性があります(会社法第976条)。
特に消滅会社の解散は、吸収合併登記の後でなければ、第三者に対抗することができないことから、速やかに登記を実行することが肝要です(会社法第750条)。
会社法にもとづく登記申請期限を厳守するため、しっかりと準備を行ったうえで、登記申請手続きを進めましょう。
債権者異議手続きと許認可に注意
吸収合併公告に関しては、字句の誤り・記載事項の不足・掲載媒体の選択ミスなどがあると、手続きに重大な支障を生じる場合があります。特に、官報・日刊新聞紙・電子公告いずれの方式でも、掲載直前の訂正は原則として困難で、一度誤って掲載されてしまうと、訂正公告を行う必要が生じたりと、追加費用や日程の大幅な遅延につながります。その結果、当初予定していた吸収合併の効力発生日に間に合わず、事業の継続や取引先との契約更新、決算対応等、関連業務に影響が出るケースもあります。
債権者保護手続きは吸収合併の手続きの中でも特に失敗が許されない工程であるため、専門家(司法書士・弁護士等)の関与のもとで進めることを強く推奨いたします。
また、一般貨物自動車運送事業、第二種貨物利用運送事業など、主務官庁の認可が吸収合併の効力発生要件となっている事業については、主務官庁との事前協議が不可欠です(貨物自動車運送事業法第30条、貨物利用運送事業法第29条)。この場合、上記の2か月という期間より、さらに長い準備期間を要することが一般的です。吸収合併の認可申請に必要な書類の事前確認や、管轄官庁との調整に時間を要することが多く、合併準備は計画的に進めることが重要です。
特例有限会社が存続会社となる場合
特例有限会社が当事者となる場合の留意点です。特例有限会社は吸収合併における存続会社になることができません(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第37条)。一方、特例有限会社を消滅会社として吸収合併することは可能です。もし、特例有限会社を存続会社として合併したい場合は、事前に商号変更による通常の株式会社へ移行の登記申請を済ませておくか、商号変更による通常の株式会社に移行することを停止条件として吸収合併の手続きを進める必要があります。この場合、スケジュールの策定や各種手続きの方法がより緻密で専門的な内容となる為、必ず専門家の関与のもとで、諸手続きを進めることをお勧めします。
書類不備と法務局の審査
登記の申請においては、法務局による書類審査が非常に厳格です。提出書類に不備や不足があると、「補正(訂正や追加提出)の指示」が出されます。補正の通知が来た場合、内容によっては担当者が法務局に出向いて訂正対応をしなければならず、作業が長引くおそれがあります。登記申請前に添付書類や記載事項を十分チェックし、不明点があれば専門家に確認するなどして、一回の申請で受理されるよう万全を期しましょう。
司法書士が関与する場面とサポート内容
吸収合併のような組織再編手続きでは、司法書士が各所で専門的なサポートを提供します。司法書士は会社法・商業登記実務のプロとして、契約から登記申請まで一連の流れを適切に進めるお手伝いをいたします。以下に、司法書士が関与する主な場面とそのサポート内容をまとめます。
事前相談・スケジュール策定
吸収合併スキームを検討する段階で、司法書士が手続き全体の流れや必要なステップについてアドバイスします。合併契約の締結時期や公告のタイミング、株主総会の招集手順など、法定期限を踏まえたスケジュール策定を支援します。早期にご相談いただければ、効率的かつ抜け漏れのない計画作りが可能です。
書類の作成支援
吸収合併に必要な書類一式の作成をサポートします。具体的には合併契約書のひな形準備やチェック、株主総会や取締役会の議事録作成、債権者異議手続きにおける公告掲載手配及び催告書の作成支援などです。司法書士は会社法及び商業登記の知識に基づき、書類に盛り込むべき事項を的確にアドバイスできます。特に議事録や契約書の記載内容に不備があると登記申請で補正を受ける原因となるため、プロの視点で事前に整えておくことが重要です。
登記申請の代理
吸収合併の効力発生日が到来したら、司法書士が登記申請手続きを代理します。司法書士は依頼を受けて法務局への申請書類一式を準備・提出し、当事会社の代表者に代わって窓口対応を行います。登記申請にあたっては、添付書類の漏れや形式不備がないか入念に確認し、スムーズな受理・完了を図ります。万が一、法務局から補正の指示が出た場合でも、司法書士が迅速に対応し書類の訂正・追加提出を行いますので、ご依頼者様は本業に専念できます。
関連手続きのフォロー
吸収合併の登記が完了した後も、必要に応じて関連する諸手続きのフォローを行います。例えば、合併に伴う許認可の承継手続きや社内規程の整備、取引先への通知などについて、提携する弁護士・税理士・行政書士等と連携してアドバイスすることも可能です。合併手続き全般で不明な点があれば、お気軽にご相談ください。
司法書士に依頼するメリットは、会社法及び商業登記等の専門知識に基づく正確な手続きと安心感です。吸収合併に伴う一連の法務手続きは、経営者の方にとって非常に煩雑で見慣れない作業が伴います。司法書士に任せれば、法務局の厳しい審査基準にも適合した書類作成・申請をスムーズに行えるため、時間と労力の節約になります。仮に自社で登記申請に挑戦しても、各種法令を調べる手間や法務局とのやり取りに追われて本業に支障が出ては本末転倒です。専門家である司法書士のサポートを受けることで、合併手続きを円滑に進め、過料のリスク回避や手続き漏れ防止につなげることができるでしょう。



司法書士法人川岸事務所では、これまでの豊富な実務経験を生かし、吸収合併手続きを正確かつスムーズに進めるためのサポートを行っています。債権者異議手続・許認可の確認など、複雑なポイントも丁寧に対応いたしますので、初めての合併でも安心してお任せいただけます。どうぞお気軽にご相談ください。

