特例有限会社の通常の株式会社への移行手続き|司法書士法人川岸事務所

目次

特例有限会社のまま存続するメリット・デメリット

 旧有限会社法の規定により設立された有限会社で「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下、整備法という。)」施行(平成18年5月1日)の際、現に存在するものは、会社法の規定による「株式会社」として存続することとなりました(整備法2条1項)。
 
 旧有限会社は、株式会社より規制が緩やかであり、旧有限会社に通常の株式会社と同様に会社法の規定を適用すると、旧有限会社法よりも厳しい規制となるため、整備法は多くの経過措置および会社法の特則を設け、旧有限会社に配慮しています。株式会社と称さず、「特例有限会社」という名称とされたのもその特則の1つとなります(整備法3条2項)。

 整備法45条において、特例有限会社は定款を変更して、その商号中に株式会社という文字を用いる商号の変更をすることができる。とされています。一方、特例有限会社から通常の株式会社へ移行の登記をした後は、元の特例有限会社へ戻す手続きは設けられておりません。そのため、特例有限会社が通常の株式会社へ移行するに際しては、慎重な判断が必要となります。

 特例有限会社から株式会社へ移行する旨を判断するにあたり、「特例有限会社」のまま存続するメリット・デメリットの一例を以下にご紹介いたします。

 【特例有限会社のまま存続するメリット】

■取締役(株式会社であれば2年)・監査役(株式会社であれば4年)に任期の定めがない(整備法18条)。そのため、任期満了に伴う取締役の再任登記に要する登録免許税(資本金の額が1億円以下の株式会社が申請する役員変更登記の登録免許税は1万円)や司法書士手数料の節約が出来る。
※法律上、任期の定めがなく、「無期限」ということなりますが、定款に任期の定めを設けた場合には、その定めに従うこととなります。

■決算公告の義務がない(整備法28条)。したがって、決算公告費用(例:官報2枠の場合、81,765 円)の節約ができる。

■休眠会社のみなし解散に関する規定が適用されない(整備法32条)。
以下、みなし解散に関する記事です。ご参照ください。

 【特例有限会社のまま存続するデメリット】

■株主総会の特別決議の要件が厳しく、株主間で意見の対立がある場合は、特別決議の成立が困難となる恐れがある(整備法14条3項)。

■吸収合併存続会社や吸収分割承継会社になることができない(整備法37条)。
以下、吸収合併に関する記事です。ご参照ください。

■株式交換および株式移転に関する規定が適用されない(整備法38条)。

■商号に「株式会社」の文字が使用できないため、閉鎖的で小規模な会社というイメージのままとなる。

■取締役1名の有限会社では、「代表取締役」として登記されないため(整備法43条1項)、「代表取締役」という名称を用いることができない。

 特例有限会社の中には、規模の小さい会社を家族で経営する形態のものが少なくありません。このような家族経営の会社の場合には、通常の株式会社へ移行するメリットは大きくなく、特例有限会社であり続けた方が、かえって効率的でしょう。一方、事業拡大を目指す場合や後継者がおり、その後継者のやる気に応えるため、インセンティブとして株式会社へ移行することも検討に値するでしょう。
 いずれにしても、一度通常の株式会社へ移行してしまうと後戻りができないため、移行の手続きに着手する前に、上記のメリット・デメリットを斟酌したうえで、慎重に判断することが望ましいと考えます。

\ お電話でのお問い合わせはこちら(初回相談無料) /

特例有限会社の通常の株式会社への移行の法務手続きの流れ

特例有限会社の通常の株式会社への移行の一般的な法務手続きの流れは次のとおりです。

STEP
株主総会招集(提案)の決定

 株主総会をリアル開催する場合、株主総会の招集について、取締役の過半数をもって決定します(会社法348条2項)。
 会社法第319条第1項にもとづく株主総会の書面決議を行う場合であっても、上記と同様であり、取締役が取締役会の決議等を経ずに提案した場合は、決議取消事由になると解されるとの見解もあります(江頭憲治郎『株式会社法[第8版]』p374)。

STEP
株主総会決議

 特例有限会社の通常の株式会社への移行は、商号中に株式会社という文字を用いる定款変更を行うことが必要であり、株主総会の特別決議によることを要します(整備法45条)。

(株式会社への商号変更)
整備法第四十五条 
特例有限会社は、第三条第一項の規定にかかわらず、定款を変更してその商号中に株式会社という文字を用いる商号の変更をすることができる。
2 前項の規定による定款の変更は、次条の登記(本店の所在地におけるものに限る。)をすることによって、その効力を生ずる。

「有限会社A商事」という商号を株式会社への移行に伴い、「B商事株式会社」とすることも差し支えありません。

 また、特例有限会社の取締役および監査役には、任期の上限が定められていないことが通常です(整備法18条)。株式会社への移行の登記を申請した時点から会社法332条または336条の規律に服することとなります。移行の登記申請時にいまだ任期が残っている役員は、株式会社への移行と同時に残存任期が開始し、既に任期が満了している役員は、移行と同時に退任することとなります。定款に補欠・増員規定を設けた場合には、移行による一部取締役の退任に伴い、他の取締役も任期満了により退任すると解されます。そのため、特例有限会社の役員の在任期間が移行時の定款に定める役員の任期を超える場合には、株主総会において、移行後の取締役を予選する決議を行うことが一般的です。

【株式会社への移行と代表取締役の選定手続】
■移行と同時に「取締役会設置会社」となる場合の留意点
 移行前の特例有限会社には、取締役会という機関が存在しないため、移行前に取締役会により代表取締役を選定することはできません。そのため、最初の代表取締役の選定は、移行後の株式会社の定款の附則にその氏名を記載するか、又は移行を決議する株主総会において、定款により最初の代表取締役を株主総会により選定する旨を定めたうえで、予選することとなります。

■移行後も、「取締役会を置かない」場合の留意点
・定款に「代表取締役は、取締役の互選により定める」とある場合
 移行前後で、取締役の構成が変化しない場合は、移行前に取締役の互選により代表取締役を予選することが可能です。移行前後で、取締役の構成が変化する場合は、代表取締役の予選は不可となるため、定款の附則に直接代表取締役の氏名を記載して選定します。
・定款に「代表取締役は、株主総会の決議により定める」とある場合
 株主総会の決議によって、代表取締役を予選することが可能です。

STEP
登記の申請

 特例有限会社の通常の株式会社への移行の効力は、株主総会の決議後、本店の所在地において登記をすることにより、効力が生じます(整備法45条)。
 なお、特例有限会社が、株主総会の決議をしたときは、2週間以内に本店の所在地において、特例有限会社については、「解散」の登記をし、商号の変更後の株式会社については「設立」の登記をしなければなりません(整備法46条)。申請順は、「設立」⇒「解散」の順とし、連件で申請します。
 「設立」の登記の登録免許税額については、資本金の額の0.15%(移行の直前における資本金の額を超過する部分については、0.7%。計算した税額が3万円に満たないときは、3万円となります。)、「解散」の登記の登録免許税額については、3万円となります。

(特例有限会社の通常の株式会社への移行の登記)
整備法第四十六条 
特例有限会社が前条第一項の規定による定款の変更をする株主総会の決議をしたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、当該特例有限会社については解散の登記をし、同項の商号の変更後の株式会社については設立の登記をしなければならない。この場合においては、会社法第九百十五条第一項の規定は、適用しない。

 なお、特例有限会社の移行に伴う「設立」の登記については、令和8年2月2日施行の「休日を会社の設立の日」とする改正の対象外となります。

\ 「休日設立」に関しては、以下のコラムで解説しています。 /

その他登記実務上の留意点

その他の登記事項(本店移転を除く。)の変更

 移行の登記と同時に、資本金の額その他の登記事項の変更(本店移転を除く)が生じた場合において、移行による設立の登記の申請書に当該変更後の登記事項が記載されたときは、これを受理して差し支えないとされています(平成18・3・31民商782号通達)。つまり、「事業目的」、「発行可能株式総数」等の変更を併せてすることが可能です。これらについては別途の登録免許税は発生しないため、節税につながります。また、募集株式の発行についても、株式会社への移行の効力発生日(=登記申請日)と募集株式の発行による変更日(=払込期日)が同日であれば、両者を同時に登記申請することが可能です。登録免許税額については、移行の直前における資本金の額を超過する部分については、0.7%となります。特例有限会社の場合、会社法施行後、定款の変更をしていない限り、発行可能株式総数と発行済株式の総数は同数(整備法2条3項)のため、発行可能株式総数を増加する定款変更を行う必要があるでしょう。

本店移転と併せて登記する場合

 株式会社への移行の登記の場合、特例有限会社の「本店所在場所」は移行後の株式会社の登記事項とされていません(整備法136条19項)。そのため、移行の登記の際に、株式会社の本店として、新本店所在場所を登記してしまうと、株式会社の登記記録から特例有限会社の登記記録をたどることができなくなるといった公示上の問題が生じるため、本店移転登記は移行登記とは別に申請すべきとされています(登記研究701号207頁)。
■管轄内での本店移転の場合
 本店移転登記と移行の登記は、同一の申請書で申請することができないため、移行の登記の前件または後件として申請することとなります。また、定款上の本店所在地を具体的な所在場所まで定めている場合には、本店移転に伴う定款変更も必要となります。株式会社への移行の効力発生と本店移転の効力発生を同時とする定款変更を行う場合であっても、移行の効力は移行の登記によって生じるため、本店移転登記は移行の登記の後件として申請することとなります。
■管轄外での本店移転の場合
 定款の本店所在地に関する定めを必ず変更する必要があるため、本店移転の登記を移行の登記に先行して行うことが出来ず、後件で行う必要があります。つまり、(1/4:設立の登記、2/4:解散の登記、3/4:本店移転の登記(旧本店所在地)、4/4:本店移転の登記(新本店所在地))の順で登記を申請する必要があります。

司法書士が提供できるサポート範囲

 特例有限会社から株式会社への移行の手続きは、一度手続きを完了させてしまうと原則として元に戻すことができない不可逆的な手続きです。そのため、制度理解のみならず、将来の経営方針や株主構成も見据えた慎重な判断が求められます。
 こうした重要な局面においては、専門家による適切なサポートが成功の鍵となります。
 司法書士は会社法・商業登記のプロフェッショナルとして、以下のような実務サポートが可能です。

特例有限会社と株式会社への移行についてのアドバイス

 特例有限会社のまま維持する場合と、株式会社へ移行する場合のメリット・デメリットを踏まえ、会社法の観点から、貴社の現状と今後の事業展開に即した最適な選択を的確にご提案いたします。

スケジュール策定・各種法務手続き書類の作成


 移行スケジュールを全体最適の観点から策定し、株主総会関係書類や定款変更案、登記申請書類など各種法務書類を正確かつ迅速に作成し、円滑な手続きを実現します。

法務局への登記申請代理

 法務局への登記申請を代理し、申請書および添付書類の作成から提出まで一括対応します。事前相談や補正対応も含め、円滑かつ確実な登記完了をサポートいたします。

司法書士法人川岸事務所では、これまでの豊富な実務経験を生かし、特例有限会社から株式会社への移行手続きを、正確かつスムーズに進めるためのサポートを行っております。移行に伴う定款変更や機関設計、登記申請など複雑になりがちな実務上のポイントについても丁寧に対応いたしますので、初めての移行手続きでも安心してお任せいただけます。どうぞお気軽にご相談ください。

目次