【事業承継対策】黄金株(拒否権付種類株式)設定の手続きについて解説

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黄金株(拒否権付種類株式)とは

 中小企業の事業承継においては、オーナー経営者が保有する自社株式の承継が重要な課題となります。もっとも、オーナー経営者の中には、自社株式を段階的に後継者へ承継していきたいと考える一方で、自身が健在である間は、一定の影響力を維持しておきたいと考える方も少なくありません。

 事業承継の場面では、たとえばオーナー経営者が後継者に普通株式を承継させる一方で、自らは黄金株を1株保有し続けるという形で活用されることがあります。黄金株とは、会社としての意思決定について拒否権を与える種類株式(拒否権付種類株式)のことを指します。会社法上は、一定の事項について株主総会または取締役会の決議に加え、当該種類株主総会の決議を要する旨を定款で定めることにより設計されます。当該定款の定めにもとづき、黄金株を保有するオーナー経営者は、対象事項について実質的な拒否権を行使することが可能となります。

 このような設計を採用すれば、後継者に日常的な経営判断を委ねつつ、合併・会社分割等の組織再編、重要な財産の処分、新株の発行等、会社経営上、重大な影響を及ぼす事項について、オーナー経営者が最終的な意思決定権を維持することが可能となります。

 もっとも、黄金株は強力な拒否権をともなう制度であるため、その設計や運用には慎重な検討が求められます。拒否権の対象事項を合理的な範囲に限定することや、オーナー経営者の意思能力喪失や死亡した場合の黄金株の取扱いについて、あらかじめ整理しておくことが望ましいといえるでしょう。

 このように、黄金株は、後継者への経営権の移行とオーナー経営者の関与とのバランスを図る手段として、事業承継において一定の有用性を有する制度といえます。適切な制度設計を行うことで、円滑な世代交代と企業価値の維持を両立させることが期待されます。

 黄金株の設計にあたっては、会社法上の複雑な検討を要します。そこで本コラムでは、黄金株の設定に係る法務手続および実務上のポイントについて解説いたします。

黄金株(拒否権付種類株式)設定の法務手続きの流れ

 以下では、一般的な中小会社(取締役会設置会社・株式の譲渡制限規定有り・普通株式のみを発行している会社)を前提として、手続の流れを説明します。

STEP
株主総会招集(提案)の決定

 株主総会をリアル開催する場合、株主総会の招集について、取締役会の決議をもって決定します(会社法298条4項)。
 会社法第319条第1項にもとづく株主総会の書面決議を行う場合であっても、上記と同様であり、取締役が取締役会の決議等を経ずに提案した場合は、決議取消事由になると解されるとの見解もあります(江頭憲治郎『株式会社法[第8版]』p374)。なお、「株主」から提案する場合は、前提となる取締役会の決議は不要と考えられます。

STEP
株主総会決議

黄金株等の種類株式設定に係る定款変更のため、株主総会決議(特別決議)を行います(会社法466条)。

【定款変更内容の一例】
■発行可能種類株式総数
 種類株式設定前の発行可能株式総数が1万株である場合、発行可能種類株式総数を、普通株式について「9,999株」、黄金株について「1株」と定めることが考えられます。この場合、発行可能株式総数と発行可能種類株式総数の合計数を一致させる必要はなく、発行可能株式総数が、発行可能種類株式総数の合計数を上回る内容とすることも、その逆も可能です。
 黄金株を保有する株主は非常に強い権限を有することから、実務上は、当該株式の発行数を「1株」のみとし、発行可能種類株式総数についても「1株」と設定するケースが一般的です。出口戦略の観点で、黄金株に取得条項を付す場合には、取得条項付種類株式に関する以下の論点にも留意する必要があります。
・取得条項付株式の取得対価として交付される株式の数については、「発行可能株式総数」を留保すべきとの規制はありません。
・取得条項付株式の対価として交付される株式数だけ「発行可能種類株式総数」を留保する必要があります(会社法114条2項)。

■発行する各種類の株式の内容
 「黄金株(拒否権付種類株式)(会社法108条1項8号・同法2項8号)」の設定に加え、出口戦略として、「取得条項付種類株式(会社法108条1項6号・同法2項6号)」も定めることがあります。なお、株式の内容について特段の定めがない「普通株式」であっても、種類株式発行会社においては「種類株式」の一つとして位置付けられる点に留意する必要があります。また、各種類株式の名称については、「甲種類株式」や「A種類株式」等、自由に定めることが可能です。
 拒否権付種類株式の内容としては、株主総会または取締役会の法定決議事項の「全部」または「一部」を拒否権の対象事項とすることもできるし、法定決議事項以外の定款にもとづく決議事項を拒否権の対象事項とすることもできるとされています。
 取得条項付種類株式の内容としては、黄金株を保有する者が死亡した場合や後見・保佐・補助開始の審判を受けた場合を取得事由とし、金銭や普通株式の交付と引き換えに取得するといったものにします。
 また、取得条項付種類株式の対価を金銭とする場合、取得事由が生じた際に、当該株式の取得日における分配可能額を超えて金銭対価を交付することはできません(会社法170条5項)。

会社法108条2項8号(拒否権付種類株式の内容)
 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件

会社法108条2項6号(取得条項付種類株式の内容)
六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法

拒否権については、取締役会設置会社の場合、「取締役会において決議すべき事項」に及ぼすことが可能ですが、取締役会非設置会社における「取締役の決定事項」については、拒否権の対象事項とすることは困難であるものとされています。また、種類株主総会決議に対する拒否権についても不可能とされています。

 種類株式の内容として、会社法322条2項にもとづく定款の定めを行うことがあります(本定めは、登記事項となります。)。
 会社法322条1項に規定される行為をする場合、「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は、当該種類株主総会の決議を要するものとされています。

 種類株主総会が必要となる場合として、会社法322条1項に掲げられている事項が、「限定列挙」であるのか、それとも「例示列挙」であるのかについては、会社法の立案担当者も確定的な見解を示していません。


 会社法322条2項にもとづく定款の定めを規定した場合においては、同法同条第1項第1号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を除き、会社法322条1項に規定される種類株主総会の決議を省略することが可能です(会社法322条3項)。

会社法322条1項各号の行為について一括してのみ種類株主総会不要とすることができ、一部の行為に限って種類株主総会決議を不要とすることはできないとされています。


 なお、ある種類株式の発行後に定款を変更して、会社法322条2項に定める種類株主総会決議を不要とする旨の定めを設けるには、当該種類株主全員の同意を要します(会社法322条4項)。
 なお、種類株主総会決議を不要とすることの代償措置として、定款で種類株主総会決議を要しない旨を定めた場合には、損害の及ぶ種類株主には株式買取請求権が認められるものとされていることにも注意を要します(会社法116条1項3号)。

(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会)
会社法第322条 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
一 次に掲げる事項についての定款の変更(第百十一条第一項又は第二項に規定するものを除く。)
イ 株式の種類の追加
ロ 株式の内容の変更
ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
一の二 第百七十九条の三第一項の承認
二 株式の併合又は株式の分割
三 第百八十五条に規定する株式無償割当て
四 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第二百二条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
五 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第二百四十一条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
六 第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当て
七 合併
八 吸収分割
九 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
十 新設分割
十一 株式交換
十二 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
十三 株式移転
十四 株式交付
2 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。
3 第一項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第一項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。
4 ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第二項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。


その他、会社法199条4項・会社法238条4項にもとづく定款の定めを併せて行うことがあります。
なお、会社法199条4項・会社法238条4項にもとづく定款の定めは、種類株式の内容ではないため、登記することはできません。

会社法199条4項 
種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

会社法238条4項 
種類株式発行会社において、募集新株予約権の目的である株式の種類の全部又は一部が譲渡制限株式であるときは、当該募集新株予約権に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を目的とする募集新株予約権を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

STEP
会社と株主の合意・他の株主全員の同意

発行済株式の一部を他の種類の株式とすることについては、上記定款変更の決議のみでなく、以下の手続きが必要となります(昭50・4・30民四2249号回答)。
①:株式の内容の変更に応ずる個々の株主と会社との合意
②:株式の内容の変更に応ずる株主と同一種類に属する他の株主全員の同意
③:その他の種類株式(損害を受けるおそれのあるもの)の種類株主総会の特別決議

※上記②の要件については、株式の内容の変更に応ずる株主に不利益が生じるのみで、同一種類に属する他の株主に不利益が生じない場合は、その同意は不要と解されます(商業登記ハンドブック第5版p248)。

「不利益が生じない」旨の判断は非常に難しいため、実務的には
紛争防止の観点から、基本的には同意を得るよう努めることが望ましいと考えられます。

STEP
登記の申請

黄金株等の種類株式の設定の効力発生後、2週間以内に本店所在地において、変更の登記をしなくてはなりません(会社法915条1項、911条3項7号・9号)。

その他実務上の注意点

黄金株等の種類株式の設定の手続きを進める際に、その他実務上注意すべきポイントを記載します。

株券発行会社の場合

 黄金株は会社の重要事項について拒否権を有するなど極めて強い権限を伴う株式であることから、その株券が紛失・流出した場合には、会社の経営に重大な影響を及ぼすおそれがあります。株券については、これを善意無過失で取得した第三者が当該株式の所有権を取得する可能性があり(会社法131条)、株券の管理には十分な注意を要します。そのため、株券発行会社において黄金株を発行する場合には、当該株主から株券不所持の申出を受ける方法や、これを機に株券不発行会社へ移行することについても検討することが望ましいといえるでしょう。

 取得条項付種類株式の取得の局面においては、当該取得条項付種類株式の株券を提出しなければならないとされており、原則として取得の効力発生日の1か月前までに、株券提出手続きをしなければなりません(会社法219条1項)。なお、株券を現に発行しているか否かにより、株券提出公告および通知の必要性に影響を及ぼします。取得条項付種類株式の取得時期の予測が困難な場合(たとえば、「黄金株を保有する者の死亡」等)、株券提出手続きを適法に実施できない可能性があるため、取得条項付種類株式導入の際に、あらかじめ「株券不発行会社」に移行しておくことが望ましいものと考えます。
※平成18年5月1日の会社法施行前は、「株券発行会社」が原則とされ、「株券不発行会社」は例外的な取扱いとされていました。これに対し、会社法施行後は原則と例外が逆転し、株券を発行しない会社が原則となりました。もっとも、会社法施行時の経過措置により、従前から存在する会社については、株券を発行しない旨の登記がされていない場合には、「株券を発行する旨」の登記が法務局の職権により行われています。そのため、中小会社の登記簿においては、「株券を発行する」旨の登記が現在でも頻繁に見られます。

司法書士が関与する場面とサポート内容

 黄金株(拒否権付種類株式)・取得条項付種類株式の発行のような種類株式の設定の手続きでは、司法書士が各所で専門的なサポートを提供します。司法書士は会社法・商業登記実務のプロとして、書類作成から登記申請まで一連の流れを適切に進めるお手伝いをいたします。
 以下に、司法書士が関与する主な場面とそのサポート内容をまとめます。

事前相談・スケジュール策定

 黄金株(拒否権付種類株式)や取得条項付種類株式の設計を検討する段階においては、オーナー経営者の事業承継に対する考え方や、後継者・非後継者となる推定相続人の状況、さらには将来の相続の局面も見据えることが重要となります。司法書士は、これらの事情を踏まえつつ、手続全体の流れや必要となるステップについてアドバイスを行います。また、株主総会等の各会議体の開催手順を整理し、法定期限も踏まえたスケジュールの策定についても支援します。

書類の作成支援

 黄金株(拒否権付種類株式)や取得条項付種類株式の発行に必要となる書類一式の作成をサポートします。司法書士は、会社法および商業登記の知識に基づき、書類に盛り込むべき事項について的確なアドバイスを行うことができます。特に、株主総会議事録や合意書兼同意書の記載内容に不備がある場合には、登記申請の際に補正を求められる原因となることがあります。そのため、これらの書類については、専門家の視点から事前に内容を整えておくことが重要です。

登記申請の代理

 種類株式設定の効力発生日から2週間以内に登記申請を行うことは法律上の義務です(会社法第915条)。この期限を過ぎてしまうと、100万円以下の過料に処される可能性があります(会社法第976条)。会社法にもとづく登記申請期限を厳守するため、しっかりと準備を行ったうえで、登記申請手続きを進めましょう。

  

 司法書士に依頼するメリットは、会社法および商業登記等の専門知識に基づく正確な手続と安心感にあります。種類株式の設定に伴う一連の法務手続は、内容が非常に複雑であるうえ、事業承継という重要な局面に関わるものであるため、手続に誤りが生じることは極力避けなければなりません。司法書士に依頼することで、会社法にもとづく書類の作成や登記申請を円滑に進めることができ、時間と労力の節約につながります。仮に自社で種類株式の設計や登記申請に取り組んだ場合、各種法令を調査する手間や法務局とのやり取りに多くの時間を要し、本業に支障が生じてしまっては本末転倒です。専門家である司法書士のサポートを受けることで、種類株式設定に係る手続きを円滑に進めるとともに、過料のリスクの回避や、会社法にもとづく検討事項の漏れを防止することにつながります。

司法書士法人川岸事務所では、これまでの豊富な実務経験を生かし、種類株式設定に係る法務手続きを正確かつスムーズに進めるためのサポートを行っています。
種類株式の設計にあたっては、会社法上の複雑な検討が必要となる場面も少なくありませんが、そうしたポイントについても丁寧に対応いたします。事業承継という重要な局面における種類株式の導入についても、安心してお任せいただけます。
どうぞお気軽にご相談ください。

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